コナン・ドイル「茶色い手」

コナン・ドイル「茶色い手」西崎憲訳『怪奇小説日和:黄金時代傑作選』ちくま文庫、2013年、111-139ページ。

ちくま文庫のジャンルもののアンソロジーは充実している(品切れで入手の難しいものも多いが!)。最近編まれた怪奇ものから、ドイルの一編を。

莫大な遺産を相続した医師が書き手。この短編はその書き手(語り手)による、二重の報告書のような形式を取っている。第一に、この短編は、その相続の経緯を説明するために書かれている。そこで報告されるのは「手」を失った霊を鎮める経緯であるが、第二に、語り手は心霊現象ともいえそうな出来事の報告を行う。その出来事と心霊研究(psychical research)との関連が個人的な研究テーマとして気になった。そのつながりはつぎの一節に明白である。

 わたしは自分がほかの多くの神経科医と同様、異常な現象にたいしてはやはり多大な興味をいだいていると言ったように思う。以前、わたしは心霊研究会の友人たちと、幽霊屋敷で一夜を過ごすのを目的とした委員会を作っていたことがある。(邦訳119頁)

 こうした出来事について、心霊研究(科学的なアプローチ)的に問題のないかたちでレポートすることが、語り手にとっては遺産相続の手続き(司法的にといえばいいか)としても必要だった。The Society of Psychical Research の Proceedings に掲載されているレポートの形式やレトリックと比較してみたいところだ。

 

怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)

怪奇小説日和: 黄金時代傑作選 (ちくま文庫 に 13-2)